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「TTMつよしが語った楽天の経営状態について」からの学び
前回は、楽天の経営状態について、第3四半期決算短信の財務諸表から数字を拾ってみました。下記のリンクです。
確か、携帯電話の料金を下げるために、第4の携帯キャリアを立ち上げるということではなかったでしょうか。
だから、プラチナバンドの帯域を割り当てる約束という話が出てきたのでしょうね。
でも、なかなか道は険しいようです。
今後、楽天モバイルはどうなるのか、もし、復活して黒字になったとしたら、奇跡級の出来事だと思います。
ところで、この会計シリーズの記事は、ほぼ初心者の人が、できるだけストレス無く、決算書を分かるようになるという趣旨で書いております。
今回は、社債とか損益分岐点とか、範囲をひろげましたので、ちょっとむつかしいかもしれませんが、「TTMつよし」の動画にからめて、できるだけ、なるほどなーと思える記事にしていきます。
社債をよくご存じの方は、むつかしくないかもしれません。
読んで分かった、と感じていただければ幸いです。
社債
社債発行の記事について
楽天グループが700億の社債を発行したという記事を以下に載せます。
「楽天グループは24日までに、ドル建ての無担保優先債の発行条件を決めた。年限2年のディスカウント債で、利率は年10.250%。割引分を加味した最終的な利回りは12%となる。発行額は総額5億ドル(約700億円)。」(日本経済新聞2022年11月24日)
ドル建てなので、5億ドルですね。1ドル140円の計算です。今日みたら1ドル135円になってます。ちょっと円高に戻ってます。
円換算したら約675億円ですね。
優先債だから信用力はある債券ということです。でも最終的な利回りが12%は高い気がします。
普通、信用力のある債券は最終利回りが低くなる(安全だから)ものですが・・・
年限2年のディスカウント債ですから2年後には返済しなければなりません。
利率は、年10.250%ですから、利息は年5125万ドルです。利率は高いですね。
新聞記事の数値に従ってこの社債の現在価値を計算してみる
それでは、楽天グループが2022年11月に発行した5億ドルの現在価値を計算してみます。
この社債の、1年後の利息額と、2年後の利息額および社債の償還額を、複利最終利回りで割引きます(ディスカウントします)。
つまり、2年後の5億ドル+利息は、現在価値に割引く(ディスカウントする)と4億8521万ドルだということです。
日経の記事の、「発行額が5億ドル」はおかしいです。
発行額は4億8521万ドルで、2年後の償還時に合計5億ドル(+利息)を社債権者は受け取れるということでないと、筋が通りません。
2年総額の楽天の借金は5億ドルです。
ちなみに、Bloombergの記事では、単に5億ドルと書いてあるだけで、発行額5億ドルとは書いていません。
額面額(2年総額で債権者が受け取る金額)が5億ドルで、発行額(発行時に債権者が支払う金額)は4億8521万ドル。これだと筋が通ります。
楽天が受取る金額が12%割引かれるということです。大きな割引率ですね。
12%も割引かれても、今のお金が必要ということで、楽天の苦しさが表れています。
損益分岐点
動画の中では、採算分岐点という言葉を使っていましたが、採算分岐点でググっても損益分岐点ばかりが表示されるので、損益分岐点で通します。
※損益分岐点を長々と書いてしまいましたが、楽天の業績評価を分かり易く見る評価指標はARPUでしたので、損益分岐点は軽く流す程度でも良いです。
変動費は売上高に比例、固定費は一定
まず、一般的に売上高=変動費+固定費+利益と言う関係があります。
売上高=変動費+固定費+利益
変動費は売上高に比例します。
100万円で売れる製品を作る場合、材料費が40万円なら、
200万円で売れる製品を作る場合、材料費は80万円です。
この時、変動費はすべて材料費としたら、変動比率は40%です。
固定費は一定です。
100万円で売れる製品を作る場合、材料費が40万円で固定費が60万円なら利益は0円。
200万円で売れる製品を作る場合、材料費が80万円で固定費が60万円なら利益は60万円。
変動費=売上高×変動比率ですから、売上高は下記のように表せます。
売上高=売上高×変動費率+固定費+利益
損益分岐点とは利益が0になる点
損益分岐点とは利益が0になる点です。上述の100万円の製品の場合がそれにあたります。
損益分岐点とは、売上高=変動費+固定費となる点です。
すなわち利益が0になる点です。
下図に損益分岐点の図を載せます。
現実的には「固定費が水平に一定なんてありえないだろ。」とか思われるかもしれませんが、これは理論によるモデル図ですので、この前提で話を進めるというものです。
ということで、固定費はどこまで行っても同じ金額と言う前提です(固定費は一定)。
売上高は操業度に応じて金額が変化します。
変動費も同様に操業度に応じて金額が変化します。
ところで、変動費は一定の傾きを持った直線ですので、変動比率は一定です。
利益が0の時、固定費を限界利益率で割ると損益分岐点売上高になる
ちょっと聞きなれない言葉かもしれませんが、売上高から変動費を引いたものを限界利益と言います。(売上高=変動費+固定費+利益)
限界利益=売上高ー変動費
限界利益=固定費+利益
限界利益率は売上高に対する限界利益の割合です。
よって限界利益率は「1-変動比率」となります。
※限界利益率は、売上高が1とした場合に1から変動比率(変動費の割合)を引いたもの。
限界利益率=1-変動比率
損益分岐点では利益が0になる点ですから、限界利益は固定費と等しくなります。
損益分岐点においては
限界利益=固定費
損益分岐点(利益=0)では、固定費(=限界利益)を限界利益率で割ることで、損益分岐点売上高が求められます。
その他の指標
ちなみに、限界利益=固定費+利益(利益=0でもよい)とすると、限界利益を限界利益率で割ると売上高になります。
目標利益達成売上高
利益>0の場合、限界利益=固定費+利益となります。
繰り返しになりますが、限界利益(固定費+利益)を限界利益率で割ると、売上高になります。
目標利益達成売上高を求めたいときは、
限界利益(固定費+利益)と限界利益率(1-変動比率)と目標利益が分かればよい。
目標利益を求めたいときは、
目標利益達成売上高と固定費と限界利益率(1-変動比率)が分かればよい。
安全余裕率
売上高が損益分岐点売上高をどれだけ上回るかを示す指標を、安全余裕率と言います。
売上高に対する損益分岐点売上高の比率を損益分岐点比率と言います。
安全余裕率は大きいほど経営状態は良いです。
損益分岐点比率は小さいほど経営状態は良いです。
損益分岐点販売数量
販売単価から単位当たり変動費を引くと、単位当たり限界利益になります。
単位当たり限界利益=販売単価ー単位当たり変動費
損益分岐点売上高のとき、利益=0となります。すなわち利益=0のときの販売数量が、
損益分岐点販売数量となります。
損益分岐点販売数量のとき、利益=0なので、限界利益=固定費になります。
すなわち、固定費を単位当たり限界利益で割った値が損益分岐点販売数量となります。
損益分岐点販売数量は、以下の式で算出できます。
損益分岐点では固定費=限界利益になるので、固定費を単位当たりの限界利益で割ると、
損益分岐点販売数量が求められるということです。
利益>0の場合いの目標利益達成販売数量
利益>0の場合、
限界利益(固定費+目標利益)を単位当たり限界利益で割った値が、目標利益達成販売数量になります。
目標利益達成販売数量を求めたいときは
限界利益(固定費+利益)と単位当たり限界利益(販売単価ー単位当たり変動費)と目標利益が分かれば良い。
目標利益を求めたいときは
目標利益達成販売数量と販売単価と単位当たり限界利益(単位当たり変動費)と固定費が分かれば良い。
ARPU
ARPUとは
「TTMつよし」の動画では、字幕がARUPと間違ってますが、ARPUが正しいですね。
口ではちゃんとARPU(アープ)と言っています。
と言う私も、ARPUと言う単語を知りませんでした。
ARPU(Average Revenue Per User)は日本語にすると、「1ユーザ当たりの平均収益」だそうです。
ARPUは、通信業界では重要な指標とのことです。
ARPUの数値
ARPU の計算式はググるといくつか出てくるのですが、以下の形式が一番分かりやすいと思いました。
ARPU = 売上 ÷ アクティブユーザ数
決算短信からARPUを導こうとしましたが、できなかったので、ネットからの資料をそのまま外部リンクで載せます。
楽天
楽天グループ株式会社2022年度第3四半期 決算ハイライトに関するお知らせ
該当部分を貼り付けました。赤下線は私が付け加えたものです。ARPUは1472円です。
参考にドコモとauのARPUとソフトバンクの資料の外部リンクと資料該当部分を掲載します。
ドコモ
資料の14枚目、ページ数だと13です。
ARPUは2021年度通期で新定義だと4740円、従来定義だと4810円です。
au
資料の3枚目、ページ数だと2です。
ARPUは2022年で4200円です。
ソフトバンク
グラフから読み取ったところでは、2022年度第2四半期の総合ARPUは4000円弱でしょうか。
楽天モバイルのARPUは1472円なので、主要3社と比較してみて、4割に満たない額です。
今後どうなるでしょうか。赤字が大きいのが心配ですね。もちこたえられるか。
終わりに
今回は、「TTMつよし」の動画を元に、3つの点(社債、損益分岐点、ARPU)について記事を起こしてみました。
損益分岐点販売数量でARPUが導き出せるかと思いましたが、無理でした。
損益分岐点の項は流していただいても大丈夫です。
この記事が、少しでもお役に立てれば幸いです。