はじめに
皆さんは時代劇がお好きでしょうか。
時代劇を見てて大変だろうなと思うことは、当時の風景、特にススキ野原の撮影です。
戦前までの日本の野原の雑草と言えばススキばかりだったのですが、戦後、外来種のセイタカアワダチソウが短期間で日本の野原を席捲し、今ではススキ野原を見ることは少なくなりました。
そもそも、街並みとか橋とか街道とか、現代の日本で、江戸時代以前の風景を、そのままの形で撮影するのは難しいでしょうね。
今回はそんな時代劇で、なにげなく耳にする言葉について、ぼやいてみます。
外道
「外道」について、まずは辞書を引いてみます。
①「人の道に反する邪悪な人。人でなし。」
多くの場合、この意味で使われているのではないでしょうか。人をののしる時によく使いますよね。ものすごく悪い相手に対して使うと思います。
②「仏教の立場からみて、仏教以外の教え。また、それを信じる者。」
辞書では、②の意味が一番目に載っています。
あれれ、そうすると、キリスト教はおろか、神道も外道なのですか。
神道は仏教伝来以前から日本に根ざした教えなので、外道という感覚は無かったと思います。
江戸時代はキリスト教はご法度ですから論外ですね。
仏教以外の人の立場からだと、仏教側のとんでもなく自分勝手な考えに思えます。
でも宗教って、キリスト教にしても、イスラム教にしても、ユダヤ教にしても、唯一神ですから、「自分たち以外は異教徒」になってしまうのでしょうね。
「人でなし」の使い方が、すんなり理解できますね。
たわけ者
時代劇でお侍がよく使いますね。
「遺産相続の際、子供の人数で田畑を分けると、それぞれの持つ面積が狭くなる。すると、少量の収穫となり、いずれ家系は衰退する。」
と言うことが語源だという説もあります。
本当でしょうか。
この語源ですと、お侍相手にではなく、百姓相手に使う言葉になります。
無理筋だなと思って辞書を引くと、「戯け者(たわけもの)」と言う言葉が出てきます。
「しれもの。ばかもの。」と言う意味です。
「田分け者」より、「戯け者」の方がすんなり理解できます。
阿漕(あこぎ)
時代劇ではよく、
「あこぎな奴よのう。」
なんて言う台詞を聞いたことがあると思います。
私は、「あくぎ(悪戯)」がなまったのかと、かなりの年齢になっても間違っていました。
お恥ずかしいです。
辞書を引くと、下記のようにあります。
あこぎ【阿漕】
①阿漕ケ浦。伊勢の神宮に供える魚をとるための禁漁地であったが、ある漁師がたびたび密漁を行なって捕えられたという伝説がある。
②どこまでもむさぼること。しつこくずうずうしいこと。押しつけがましいこと。
①が語源のようですが、禁漁地の話が、一般用語のように全国的に広まったのですね。
世阿弥作の謡曲にうたわれているということですから、相当古い話です。
岡本綺堂作の「半七捕物帳」の「むらさき鯉」と言う作品中にも、
『その禁断を承知しながら時々に阿漕の平次をきめる奴がある。』という半七の台詞があります。
平次とは阿漕ケ浦で度々密漁をした男の名前です。密漁をした理由として、病気の母親にヤガラという魚(病気に良い)を食べさせるために、禁を犯したという伝説があります。
そうすると、親孝行の美談になってしまいます。
ちなみに、「半七捕物帳」は、大正6年から連載が始まった時代小説です。岡本綺堂は明治生まれの人ですが、明治の頃は、半七のように江戸時代を生きてきた人たちがたくさんいて、彼ら生き証人(半七は架空の人物)の伝聞が、ふんだんに取り込まれたのが岡本綺堂作品の醍醐味です。後世までずっと読まれ続けたい作品です。
野郎
現代でも相手をののしる時などに「この野郎」とか「ばか野郎」とか、使われますよね。
「野郎」を辞書で引くと、色々出てきます。
①前髪を剃った若者。また、若い男。
②男色を売る者。
③野郎頭の略。
④男をののしっていう語。
など
高校時代でしたか、歴史の教科書で「野郎歌舞伎」という言葉を覚えています。
元は出雲阿国が始めた「女歌舞伎」がすごく流行ったのですが、風紀が乱れるという理由で「若衆歌舞伎」になり、これまた風紀が乱れるという理由で「野郎歌舞伎」になった・・・
ということで、現代では歌舞伎と言えば「野郎歌舞伎」ですね。
あま
「この野郎」の対で「このあま」という台詞が良く出てきます。
女性に「この野郎」と言うのは変ですからね。
辞書を引くと、下記の意味が出てきます。
①出家して仏門に入った女性。
②女性をののしって言う俗語。
同じ語でも、①と②ではギャップがありすぎますね。
おっとり刀
字面に引きつられて、「ゆっくりとしたさま」と誤用しがちですが、正しくは
「急な場合に、腰にさす間もなく、急いで刀を手に取ること。大急ぎで駆けつけるさまにいう。」
と言う意味です。
漢字で書くと「押っ取り刀」です。
私の聞いた経験では、ほとんどの場合、間違って使われてます。
「〇〇さんが、だいぶ後になってからおっとり刀で出てきてくれたが、遅すぎるよ。」
という感じでした。
後世のためにも、言葉の意味は間違いなく使用したいものです。